この街のでのひとときは まさに"小旅行 "と呼ぶにふさわしいものだった
朝 聖地サンティアゴを出発し 近郊列車に揺られて約1時間
あっという間にガリシア有数の港町
A Coruña へと辿り着いた
国鉄駅に到着後 バスに乗り 真っ先に自宅マンションを利用したという一軒の安宿へと向かった
着いたその宿の主人は とっても陽気な人だった
2つ残っていた全く同じタイプの部屋の どちらを使うか決めさせ
家族の集まる居間へと手招きし 観光用の地図を開いてこの港町の説明を始めた
宿の主人に 観光案内を聞くなんて この旅の中では初めての経験だった
" 街の教会 灯台 名物の路面電車 美しい海岸 美術館に水族館
そして彼の愛する地元の強豪サッカーチームの本拠地スタジアム ... "
宿の主人の口から次々と 街の観光地が飛び出してくる
そして彼のアドバイスにより その中から選りすぐりの
A Coruña 半日観光コースが出来上がった
彼もそのコースに満足の様子
スペイン モロッコ ポルトガルの旅の最後に
行き当たりバッタリではない まさにコースの決まった小旅行をすることになった
昼過ぎ カメラと地図を片手に 宿を後にした
まず 目指すは 名物路面電車
港の様子や 街の教会を眺めつつ 路面電車のターミナルへと向かうと
あたかもこちらが乗るのを待っていたかのように 出発直前の路面電車がそこに停車していた
写真を撮り 急いで電車に乗り込む
アメリカのサンフランシスコにて走るのと 同じ型のものだと宿の主人は言っていたが
その所為か 車内から見る光景に 今自分が全く別の土地にいるような錯覚を感じていた
車窓からは 大きく広がる大西洋と サッカーを楽しむ子供とそれを見守る大人達の姿
そして 遠くに かなり年期の入った石造りの灯台を望むことができた
次なる目的地は その灯台だった
数分間揺られた路面電車を降り 子供達のサッカーの試合の光景に心を和ませ
途中屋台で買ったアイスを手に 広場で老人と戯れる愛犬達を眺めながら ゆっくりと灯台へと向かった
その灯台の原型は 遙か昔のローマ時代に遡り
今の姿も 約二百数十年前より受け継がれたものという
灯台の中に入り かなり急な階段を一番上まで昇ると
先ほどまで見てきた光景と 広大な海の潮騒と そのすべてを照らす日の光が
暖かくこの身体を包み込んでゆく
夏の暑い太陽ではなく その時期を少しばかり越えた暖かい日の光だった
まさに季節は 秋へと変わりゆく途上にある
灯台の次は路面電車の線路沿いに 半島をさらに進み その途中にある水族館へと向かった
よく考えると 水族館へ行くのは かれこれ十数年ぶりだと思う
チケットを買って中に入り 周りの子供達と同じように隅々まで魚たちを覗いた
心はいつの間にか 子供の頃に戻っていたのかもしれない
椅子に腰掛け 閉館の時刻まで 静かに回遊魚たちを眺めていた
この静寂のときが 何とも幸せに感じた
水族館の閉館後 夕日を眺めるため
さらに路面電車沿いの通りを街へと進み 海岸へと向かった
〜 Playa del Orzán 〜
そこへ辿り着くには たいして時間はかからなかった
太陽は 沈むにはまだ少し高い位置にある ...
夕日を待つために 海岸の隅の岩場に腰を掛け休んだ
ふと視線を横にやると 多くの人々がトランプに興じている
きっと彼等は一日中ゲームに夢中になっていたのだろう
どんなに時が過ぎても 一向に動こうともせず 仲間との真剣勝負に勤しんでいた
そして 視線を上にやると 先ほど歩いていた通りの歩道でジョギングする人達 愛犬とともに彼等とすれ違う人々
笑顔の絶えない子供連れの家族達など 多種多様な人々の姿が目に留まり
再び海岸へ視線を向けると 少しずつ地球の裏側へと旅立とうとする太陽の西日に照らされて
犬とその飼い主が 波打ち際ではしゃいでいた
そんな姿を眺めていると まさに 目の前で日が沈もうとしている
これが 今回の旅で見る最後の夕日だった
何とも幸せで暖かい夕陽 ...
最後の日にふさわしい太陽の姿だった
日が完全に沈むのを見届けて 宿へと一旦戻った
またしても 宿の主は笑顔で迎えてくれる
そして このお父さんに タコの美味しい店を教えてもらい 再び夜の街へと向かった
不思議な事に この地方の人々は 普通にタコを食べるという
きっと この事に驚く西洋人旅行者は多いのではないだろうか
タコ料理を頂き 喫茶店で珈琲を飲み 夜の港町の景色を眺める ...
それが今回の "小旅行 " の最後の観光コースだった
〜 Pulpo 〜 (タコ) の看板の上がったその店にて タコ料理を注文する
行列が出来る店だけあって 出てきた料理の味は誠に美味しかった
オリーブオイルでゆでタコを煮込み 辛子で少し味付けをしただけなのに
たちどころに その味の虜となってしまった
その後予定通り 店を出た後 cafe でコーヒーを飲み 夜の街と港を散策して宿の部屋へと戻った
開いたままの窓から 深夜になっても人々の賑やかな声が舞い込んでくる
なぜかその雑然とした音が 何とも心地よく心に響いた
次の朝 出発は随分早かった
まだ夜が明け切らぬうちに 始発のエアポートバスで郊外の丘の上にある空港へと向かった
空港まで約30分
遠く街を望むその場所に辿り着いた時 東の空にようやく太陽が顔を出してきた
Madrid London 経由で あと24時間後には日本の土の上にいる ...
飛行機を待つ間 いつしか心の中を 今までの旅の思い出が静かに駆けめぐっていた
帰国後 数ヶ月が経ち テレビのニュースであの街から見ていた大西洋沖でタンカー事故が発生したことを知った
漁師街であるあの土地にとって このことは大打撃に違いない
この近郊での魚貝類の漁が禁止されたという話も耳にした
重油流出量は 過去2番目の多さ
もしかしたら この事故によって 旅で訪れた場所は 随分と変わってしまったかもしれない
Nunca Máis 〜もう あってはならないこと 〜
現地から風の便りで そんな言葉も舞い込んできた
それからもうすぐ1年
A Coruña の街は一体どうなっているのだろう
出来ることなら 心の中に残るあの美しい海岸が 事故以前の姿のまま
今日も人々の心を暖め続けていることを 願って止まない
ただ 今もそう祈り続けています