Marrakech から
Ouarzazate へ向かう途上のこと
何ともモロッコらしい出来事と それに伴う出逢いを経験した
午後11時過ぎ
大勢の人を乗せ 路線バスは Marrakech の長距離バスターミナルを定刻より少し遅れて出発した
Haut Atlas 越え 〜 所要時間約7,8時間 〜
目的地である
Ouarzazate へ行くには4000m級の山々が連なる Haut Atlas を越えなければならない
峠のピークは2260m 〜 Tizi n'Tichka 〜
断崖絶壁にへばりつくようにして造られた道々を猛スピードで一気に越えて行くことになる
〜 Marrakech を出て30分 〜
猛スピードで走ると聞いていたバスは かなりゆっくりとしたスピードで徐々に高度を上げていった
周りには斜面に生えるサボテンが見え
途中の村々からは重い荷物を持った人々が 次々と乗り込んでくる
〜 Marrakech を出て1時間 〜
バスの様子が少しおかしい
徐々にきつくなってゆく坂道に耐えられないのか 更にスピードが落ちて行く
見た目 かなりオンボロなので仕方ないのかもしれない
途中 何度か止まりそうにもなっていた
〜 Marrakech を出て1時間30分 〜
今まで通り クラクションを鳴らし 村を通過しようとしていたとき
バスのエンジンは完全に止まってしまった
そこからの光景は 何ともモロッコらしいものだった
バスが動かなくなったとき 運転手 車掌からは何の説明もない
いつ動き出すか なぜ止まったのかなんて全く分からない
だけど 誰も気にしない
いや 一人だけ怒ってるビジネスマン風の人がいたような気がする
でもあくまで 一人だけ
他の人たちは 何事もなかったような顔をしている
いつ動き出すのだろうか?
聞いたって きっと 笑いながらこう返ってくるだけ
「イン・シャー・アッラー」
たぶん神様の気まぐれで止まったのでしょう
だから 誰も気にしない
〜 Marrakech を出て2時間 〜
相変わらずバスは止まったままだった
する事もないので 周りを観察していた
バスの中で寝ている人達
道路の脇の木陰でお喋りに夢中の男達
先まで乗客だったのに なぜか軽油タンクの中に手を突っ込んで掃除を始める人
そして その光景を眺める人達
運転手は何度もエンジンをかけようとアクセルを踏み続けている
だが 一向に動こうとしないので 最後は諦めてしまった
バスから視界を外すと 人々や荷物を乗せたロバたちが こちらも気にせずゆったり歩いている
バスが止まってしまったという現実
でも そこには時が止まってしまったような ゆっくりとした時間が流れていた
〜 Marrakech を出て2時間30分 〜
当分動きそうにないと思っていたバスは 突然動き出した
きっとしばらく冷やしておいたのがよかったのだろう
何とかかろうじて動いているといった感じだが 歩くよりは早いスピードで目的地へと向かっていった
〜 Marrakech を出て3時間30分 〜
やっと1回目の休憩地点までたどり着いた
軽食屋やおみやげ屋まで建っていたこの高台からは
もう
Marrakech の街は見えなくなっていた
Ouarzazate までは あとどのくらいなのだろう
〜 Marrakech を出て5時間 〜
バスはかろうじて走っていた
本当にかろうじて...
峡谷地帯を走っていたときのこと
水場の近くを通るたびに運転手はバスを止め 車掌がバケツを持って走って行く
車掌が帰ってくると 手にした水をエンジン冷却用のタンクに継ぎ足していく
そしてしばらく進むと またバスを止め 車掌が走って行く
そんな繰り返しの中 バスは相変わらずゆっくり進んでいく
ふと振り返ると バスの通った後の路面には しっかりと水の漏れた跡が 果てしなく続いていた
このバスは本当に大丈夫なのだろうか?
〜 Marrakech を出て6時間 〜
バスは食事休憩のため
Marrakech と
Ouarzazate のちょうど中間地点の街
Taddert に止まっていた
この頃になると いろいろなトラブルのおかげもあり
自分の席の周りの人たちとずいぶん仲良くなっていた
モロッコ国内でも 遙か遠く ある海沿いの街で子供達を教えている先生
ポーランド・ワルシャワでロボットの研究をしているベトナム人の大学生
ワルザザートの家に帰る途中の子供達
休暇でモロッコにやって来たフランス人の青年
彼等との会話は面白かった
先生は英語、フランス語、アラビア語が分かる
普段の生活ではポーランド語を話しているという大学生は英語
子供達は英語が分からずフランス語とアラビア語
青年は少しの英語とフランス語
そして普段日本語を話す自分は片言の英語での会話
英語、アラビア語、フランス語が飛び交う中 必要に応じて誰かが誰かの話を通訳する
そんな会話を楽しんでいたとき 後から
Marrakech を出た路線バスがこの街にやって来た
〜 出来ることなら 乗り換えたいなぁ 〜
その後に控えるのは
Tizi n'Tichka 標高2260mの山越えコース
当然のごとくそう思い そのバスの車掌に交渉するが 満員でだめと断られる
諦めて再びみんなと喋っていた時 子供達に気になっていたことを聞いてみた
"この先の峠って どの山を越えるの? "
その答えとして 子供達は遙か前方に 壁の様にそびえ立つ山々を指さしこう言った
"あの山の頂上を越えるの "
その子達以外は初めての
Haut Atlas 越えだった
そして その答えに全員が驚き こう思った
〜 我々が6時間乗ってきたバスでは あの山は絶対越えられない 〜
車掌との再交渉は現地の言葉を操れる 子供達と先生に委ねられた
何度も車掌と交渉する 他の乗客たちも交渉する
しかし 座れる席はほとんど無く 車掌は渋る
諦めず何度も交渉する
そして 30分ほど交渉した後 ようやく条件付きで車掌からOKが出た
その条件とは
Taddert から
Ouarzazate までの料金を再度支払うこと
背に腹は代えられない
仕方なく料金を払い バスに乗り込んだ
他の乗客達も次々と乗って行く
元のバスの乗客の半分以上が乗っただろう
どういう訳か 我々が今まで乗っていたバスよりも早く このバスは街を出発した
〜 Marrakech を出て7時間30分 〜
バスは快調に峠を走っていた
カーブだろうが坂道だろうが 全くスピードを緩めない
ガードレールなどなく ちょっとでも道を外れると崖の下
カーブを回るたびに人々は縦や横に大きく揺れていた
まるでジェットコースター
でもこっちは通路に立っている
下り坂では まともに立っていられないほどの遠心力が常に体にかかっていた
なのに みんなの顔は幸せそのもの
バスが快調に山を越えているから
途中車窓からは 日本では想像もつかないほど険しい山道と 草木すらない荒々しい断崖絶壁の姿と
峠を登りきれず止まってしまった数台の車と 途方に暮れた人々の姿が見えた
"きっと あのままさっきのバスに乗っていたとすれば 一生 峠を越えられないだろうね "
そうつぶやくと 仲間達は大笑いをしていた
〜 Marrakech を出て8時間30分 〜
峠を完全に越え 車窓からの眺めは 砂漠地帯を予感させる姿に変わっていた
"
サハラの玄関口 Ouarzazate "
まだまだその街の姿は見えようとしない
しかし バスは相変わらずの猛スピードで 確実に目的地へと向かっている